『・・あ、そうだわ・・ねえ、ちょっと待って』

 

先ほど侍女に預けておいた果物の入った包みを受け取ると少年へと手渡す。

 

『美味しいフルーツよ、よかったら召し上がれ』

 

本当は私の夜食用なんだけど譲るわ。

少年、トイはけっして暴力に屈しなかったし泣くこともなかったことに感心してしまう。

 

こんな子供なのにね・・・豊かに見えたシャナーサだったが、貧困という暗部を抱えているようだ。

 

豪華な衣装をまとっていることに気恥ずかしささえ感じてしまいながら、窺うとトイは一瞬だけ顔を歪めたが背に腹は代えられないと思い直したのか、フルーツを受け取ってくれた。

 

「ありがと・・姫様・・妹と食べるよ」

 

施しだと思ったのだろうか?そう思えばいっそう心苦しかった。

本当は受け取りたくなかったのだと思う。

彼は施しを求めて来たのではないからだ。

 

けれどお腹を空かせた妹さんのためにトイは受け取ったんだわ。

プライドを捨てて実を取るその姿は子供とはいえ立派なものだった。

 

やがて衛兵とともにトイは去っていきその姿は見えなくなったが、まだ周囲のざわつきは残っていた。

 

どうやら王の英断を不満に思う貴族連中のようだった。

 

「あのような者が王宮に来るなんて・・さっさと罰してしまえば良いものを。王の気まぐれにも困ったものです」

 

聞こえよがしに言うのは先ほどまで畏まっていた貴族だった。

上には畏まり下には威圧的に振舞う、どこにでもいる輩だった。

 

それを聞いたライザール様が凄まじい眼光で睨みを利かせると、ヒィッと息を飲む気配がした。

 

貧しい平民の少年であっても聞く耳を持つライザール様の姿は立派だった。

 

今回の一件でライザール様と貴族連中の関係性が垣間見えたようだ。

 

私を同伴するのは自分のステータス自慢のためかもって思っていたけど・・

 

きっとそうではないんだわ・・

 

この国の実情を「私」に見せるため・・なのだとしたら

身分を笠に着た貴族とライザール様に軋轢があるのが明白な以上、「私」の立場はより信頼感を損ねてはならないものだろう。

 

「姫様・・ささお戻りくださいませ。先ほどは驚きましたわ、でもご安心くださいませ姫様が召し上がる分はまた用意させますから」

 

侍女も驚きを隠せないようだ。それからも「姫」だったらどんな態度をとったかわかってしまうわね。