やがて泣きつかれた姫が眠りについたため、再び主導権を手にすることができた。
先ほどの姫同様に裸足のまま寝台を降り、ふかふかの絨毯の感触を楽しみながら辿り着いた時、頬の濡れた感触が気になりドレッサーの鏡を覗き込んだらそこには涙の痕が残る私の姿があった。
もちろん泣いていたのは私じゃない。悲しくないのに泣きはらした表情をしているなんて・・・
姫の悲しい気持ちはわからないでもなかったが、この悲しみはけっして悟られてはならないものだったから涙を拭うとドレッサーの引き出しを開けた。
こんな場所にしまうなんて不用心だけど、姫の所有物に手を出す者はそうはいないと考えてのことだろう・・
でもあの女官長ならどうかしら?いかにも粗探しが得意そうだった。
ともかくこのチャンスを逃さずに情報収集しておいたほうが良さそうだ。
さてと・・覚えてるかしら・・お願いだから開いて!
うろ覚えながらなんとかパズル箱を空けることができて安堵する。
箱が開いた瞬間ふわりと花の香りがした。
これは・・・菫の香りかしら・・?
ロウソクの炎にかざしながら中身を確かめてゆく。
ヴィンス殿下の肖像画とブレスレットを見分した後、今度は手紙の束を手に取る。
好奇心は疼くもののやはり人のラブレターを覗き見るのは気が引けてしまう。
ヴィンス殿下の情報を得るために覚悟を決めると開封された手紙を片っ端から目を通してみた。
ヴィンス殿下と会う機会なんてそうそうないとしても姫の記憶は持っていないから、少しでも情報があった方がよいとの判断もあった。
そこにはめくるめくロマンティックな詩が綴られていた。残念ながら素養がないからどの詩集の出典なのかもわからなかったが、これがいわゆる貴族の遊び心というものなのだろう。
私には少し高尚すぎる趣味だわ。
とりあえず一通り見終わった後は思ず放心状態になってしまったのは我ながら悲しい。
さてと・・やっぱり問題はこれかしら?
姫が宝箱の奥に押し込んだ最後の一通を手に取る・・
手に取った瞬間、再び菫の芳香がした。