「私・・気分が優れませんの・・」

 

姫は体調がすぐれない様子でそっぽを向いてしまった。

 

侍女も大使も緊張の面持ちでこちらを窺っている様子だった。

なんとか諭さなければと思っても、身分が高い姫を説得するのは難しいんでしょうね。

 

――これはまずいわね。

 

姫は顔を背けているからライザール様の表情はわからなくて焦燥が募ってしまう。

 

最初から私がでるべきだったかもしれない。

 

「・・・ぜひそなたと踊りたい。・・・どうか私と踊ってもらえないか?」

 

――――!

 

ライザール様の声しか聞こえなかったけど、その言葉は直接私の心に響く力強さを感じた。

 

どんな表情でその言葉を発しているのか確かめたくて・・

咄嗟に彼を見たら、真摯な眼差しでこちらを見つめるライザール様としばし見つめ合ってしまった。その瞬間胸の高鳴りを感じた。

 

やっぱり「私」という存在がいることをご存じなのかもしれない。

 

『ええ・・喜んで』

 

だからそう答えるとライザール様も満足げに微笑まれた。

 

踊る機会はめったにないけど、なんとかなるでしょ。

 

「私のリードに任せるがいい。なに、そんなに難しいものではない」

 

少しだけ心配する私にライザール様がそう耳打ちする。

 

足を踏まないようにします・・

 

王が踊るから会場にいる賓客の視線は集中していたけど、ライザール様のリードも素敵だったし、久しぶりに踊れてとても楽しかったわ

 

視界の隅で安堵する大使や侍女の姿もあった。

姫らしい行動かはともかく、両国の平和には貢献できたんじゃないかしら。

 

踊っている間幾度なく視線が絡む度に心の高まりを感じてしまったけど・・

 

貴方もそうだったら嬉しいわ

 

今はまだ確かめる勇気はなかったけど、いずれ貴方の真実を確かめたい。

 

ライザール様は王として成すべきことをしたんだと思う。

だけど強引に成すのではなくて、姫を通して私に語り掛けてくれたんじゃないかって・・・そう感じた。