王子も行方知れずのままで絶望もあったのだろう。
彼は私という秘密を抱え込んだまま、宮殿にやってきた義賊の男に王国の命運を委ねることにしたのだ。それはまさに賭けともいうべきものだった。
愚かにも思えたが、才覚のあった義賊の男は名を改め、ライザールと名乗り王の代行をするようになった。
すでに人影もまばらだったハレムを閉鎖して、かつて根城にしていた洞窟で発見したテロメアーナで財を成し成功を収めたが、けっして驕ることなく王国の再建に心血を注ぎ名君として民を導いた。
その熱意は賞賛に値する。
そして偽りの王と王妃が婚姻して二人は「仮面夫婦」となったが、ライオールの両親とは違うようだ。
絆がある彼らならばこの王国の未来を託せるかもしれない
そうであって欲しいと願う
そうそう・・・忘れていたが大事なことがあった
ライオールの妻、つまり王族の血筋の王妃は双子だったんだった。
ライオールの父は息子にしか真実を打ち明けなかったが、ライオールの信頼を得て秘密を共有した王妃は愛を全うしたが最期まで彼に秘密を抱えたまま逝ってしまった。
弟の存在をもしライオールが知れば彼の心に魔が差すことを恐れたのだろう。
しかしそれが功を奏したようだ。
王妃より長生きした弟は旅芸人の娘と恋に落ち女児が生まれた
それがシリーンだ。生憎と両親はすでに他界してしまったがね。
王の血筋を持つ彼女だからヘナタトゥーにも耐性があったのだろう
彼女をライザールと娶せるために一計を案じたが上手くいったようだ。
本物のレイラには召使と駆け落ちして退場してもらったんだ。
こうしてシリーンはレイラとなった。
彼女には会うつもりはないが今私の心を浮き立たせるのは主のために名を失った彼女だけだ。
――シリーン・・・君は私にとっても特別な女性だよ
人のような肉欲を持たない私だが、彼女には強い情を感じる。
かつて私がまだ小さな蛇だった頃、愛してくれた女神にどこか似ているからかもしれない。
だからこれからもずっと見守ってあげるからね・・
夢渡りだったとはいえこの姿で会えて本当に良かった。
あの娘にだけは嫌われたくないんだ。
人の姿になり少しだけ人に近づいた代償なのか、もはや私には生贄は必要ないものとなった。
だからといって強大な力を失ったわけではない・・
私自身を戒めるための新たな制度を確立せねばならないだろう・・
これからも王の願いを叶えるために・・・・
そしてタワーテール&千夜一夜へ