「俺の願いを叶えるなら代償はなんだ?」
悪魔との取引はフェアじゃねぇだろ?用心するに越したことはない。
大蛇は初めてどこか楽しそうな表情をしながら言った。
「私の願いはひとつ・・・生贄が欲しい・・お前の命でも誰の命でも構わない」
まさに悪魔そのものだった。だが俺はこの機会を逃す気はなかった。
「ああ・・・その願いならなんとかなるぜ?俺はソイツにこの世から消えて欲しい、そしてあんたは腹を満たせる・・・悪くないだろ?」
我ながら最高の駆け引きだった。
頷いた大蛇に俺はソイツの名をつげた。
本名は知らないから肩書だったが、大蛇には十分だったようだ。
「いいだろう・・取引成立だ・・古き血を持つ者よ」
大蛇は黒い霧となりやがて霧散したかに見えたが気配は相変わらずあった。
俺は父にしばらく留守にすることを告げた。
けじめって大事だろ?
やっと再会できた俺とまた別れるのがよほど名残惜しいのか父は心配そうにしていたが、思慮深い性質からか俺を信じて送り出してくれた。
「どうか無事で・・・ジェミル。必ず戻って欲しい。‥待っているから」
大蛇と取引したからといって店主は底知れない男だった。
またこの場所に戻れるのかはわからないし、父の身を守るためにはむしろ戻らない方が良いのかもしれないとさえ思った。
予期せぬ肉親との再会は俺にとって幸運な出来事だった。
母が愛した男が最低で不実な男じゃないことがわかってよかった。