「ならば契約は成立だ。ありがとう・・レイラ」
――はあ?何言ってんだコイツ・・?今、シリーンをレイラって呼んだのか?
それはシリーンが成りすましていた女の名前だった。
そしてその瞬間シリーンが失ったものがわかってしまった。
シリーンは俺のために完全に名前を捨てたんだ。
それはつまりこれから一生、シリーンはレイラ・アリのままだということだった。
「かつて・・ヒラール宮を訪れた『彼』も王の願いのために本名を捨てた。『彼』は傾いていたシャナーサを復興するために尽力してくれた・・そのために払った代償を労ってもいいだろう・・?」
大蛇なりにライザールに報いたつもりらしい。
父の名を受け継ぎ名を捨てた男と、その男を愛して名を偽っていたシリーンだったが、俺のためにお前は名前を・・・・すまねぇシリーン・・・
「いいのかよ?それで・・・」
あんたは本当にそれでいいのか?
すでに契約は成立した以上、撤回はできないだろうが俺の気が済まない。
別に名前が変わたってシリーンはシリーンだったが、思うほど簡単に割り切れるとは思えなかった。
しかしシリーンは気丈に言った。
「いいの、だって・・私はあの方の妻だもの・・だからいいの。むしろやっと名を捨てる決心がついたから感謝しているくらい。それにジェミルにも長生きしてほしい。・・だからもうあんな危険なことはしてはダメよ?私はライザール様にもジェミルにも傷ついて欲しくないわ」
そういって晴れやかな顔で微笑む彼女はとても綺麗だった。
人妻になったからかもな。