しかしそこで刹那君が悔しそうに唸った。
「ダメだ・・圏外になっちまう。これじゃ救急車が呼べねえぞ・・どうする紗希」
そんな!
レスキューの手配ができなければ助けようがなかった。
先ほど男性は妻が怪我をしていると言っていた。ではひとまず応急手当をしてもらう他なさそうだ。
パニックを起こすのが一番避けたかったが、「救急車が来ない」と真実をつげるべきだろうか?
→あえて告げない
やはりここは告げない方がいいのかもしれない。
言えば彼らは自力で脱出を試みる可能性だってあった。車の外は崖で命の保証はないも同然だった。
「必ず助けますから!ひとまず奥様の手当をしてください。ハンカチとかネクタイで止血できそうですか?」
まずは手当をすべきだろう。そう幾度も冷静に言い聞かせながらも焦燥が募ってしまう。
未だに動揺はあったが男性はなんとか妻の手当てをすると言ってくれた。
この高さだけに彼も無傷ではないだろう。
様子を窺いながらなんとか聞き出すことができたのだが、武田夫妻は山中に住んでおり妻が怪我をしたため麓の病院に向かう途中濃霧で事故を起こしたようだ。
さらに二人には5歳になる一人息子である太郎君がおり家で留守番をしているため様子を見てきてほしいと言う。
確かにそれは心配だろう。
しかし現場を離れることは躊躇われたため刹那君が現場に残り私が様子を見に行くことになった。