「わかったわ。そうしましょう・・・」
こんな時だがせめて隣りに刹那君がいてくれることに心底安堵してしまう。
先ほどからずっと手を繋いだままだったことに今更ながら気づき微かに気恥ずかしさを感じたがはぐれないためか刹那君は手を離す気はなさそうだ。
→手を繋いだままにする
照れてる場合じゃないでしょ!
はぐれて二次遭難しては元も子もない。
「行くわよ」
だけど恥ずかしいから引っ張られるのではなく少しだけ先んじてみたら刹那君が苦笑した気配がしたけど好きにさせてくれた。
ジトリと重く冷たい霧に包まれていたからか、刹那君の大きな掌の温もりが妙に心地よかったことは内緒だけど。
私達が乗ってきた車は先ほどと同じ場所にあったが、置いて歩くしかなかった。
まさに五里霧中だったが霧の奥にぼんやりと光が見えてきた。
それを目印にさらに進むこと数分、やがて辿り着いたのはありふれた一軒家だった。
表札を見ると「武田」とあった。ならばやはりここが夫妻の家なのだろう。
「どうやら無事つけたようだな」
刹那君の声にも安堵が滲んでいた。さりげなく手をほどきながら頷く。
いつの間にか私達は成り行きでここまで来てしまったが、やはりここが噂の場所なのだろうか?
「ここが迷い家なのかどうかわからないけど、とりあえず太郎君の安否を確かめましょう」
それがせめてもの私達ができることだった。