後日報告書を作成するために過去の記録を調べてみたが、やはりあの家で推測した通りだった。

 

失業を機に夫婦喧嘩を度々するようになった武田氏だったが、相談する相手もおらず危うい状態のまま日々の暮らしに困窮していたそうだ。一方の妻は専業主婦だったこともあり幼子を抱えて路頭に迷うかもしれない現実に打ちのめされていたようだ。

 

そしてついにある夜夫婦喧嘩の末妻に怪我させてしまった。

武田氏は、重症の妻を車に乗せて家を出た後、山中で事故を起こし帰らぬ人となった。

 

夫妻の行方を探す者もなく、太郎君を案じる者もなく不幸が重なってしまったのだ。

 

当事者は亡くなっているため真相はわからぬままだったが、私はあの夜会った武田氏の言い分を信じようと思う。

 

あの時確かに彼は病院に向かう途中だと言った。

 

武田夫妻の遺体検案書を如月先生が取り寄せてくれたが、それにより詳細が判明した。

 

検案書によると事故前にすでに妻の方は亡くなっていたらしい。

さらに夫の方も腹部に刺創があり複数の防御創があったそうだ。凶器についた指紋は夫妻のものだった。事件が起きたのは30年以上も前のため現在ほど克明な記録ではなかったが状況を鑑みるにおそらくこうだろう。

 

生活苦で不和になった夫妻は夫婦喧嘩が絶えなくなり、寝ていた夫を妻が襲撃したが、目覚めた夫ともみ合いになり妻が重症を負った。

 

当時太郎君は仏間で寝起きしていたことも判明した。幼い太郎君も不穏な空気を感じていただろうが、母親から仏間で寝るように言われたのかもしれない。

 

妻の行動にはやや計画性が感じられたが母親として子供を巻き添えにする気はなかったということか。