【北條紗希】

 

 

遅れて辿り着き病室の入り口から伺うと、刹那君からハンカチを受け取った葉子さんがやたらと恐縮している様子だった。

 

善一はカーテンで仕切られた奥にいるらしくここからでは姿は見えない。どのみち善一に会えるのは妻である葉子だけだろう。

他の見舞客はとうに絶えたと葉子は寂しそうに告げていた。

 

病室特有の消毒液の匂いの中でも刹那君は刹那君で頬を染めながら会話を楽しんでいる様子に見えた。それはおそらく葉子もだった。

 

やはり彼女になにがしかの好意を抱いているのだろうか?

なにより気になったのは彼女を名前で呼んでいるということだった。

 

そりゃあ私達だって名字じゃなくて名前で呼び合ってるけど・・

 

それとは違うでしょ

 

理屈というより女の勘とでもいうべきものだった。

なんとなくひっかかりを感じた。

 

気の毒だと刹那君は言ったけど、そういう女に弱いのが玉に瑕なのよね。

 

深入りしない方がいいんじゃ・・という考えを飲み込む。

いけない・・お節介はしないでおこう。

 

刹那君の気持ちはともかく葉子さんの方は旦那さんへの献身愛があるならば考えすぎかもしれない。

 

釈然としなかったが女の勘というより刑事の勘とでもいうものだったのかもしれない。

 

それはいわば一抹の胸騒ぎとでもいうべきものだった。

 

気を取り直した私は退院手続きを済ませると刹那君の愛車クリスティーンで家まで送ってもらいそのまま別れた。

 

たった一日家を空けただけなのに戻れた時は心底安堵を感じた。

 

当たり前の日常が簡単に失われることを私は知っているからだ。

 

「ただいま」

 

誰にともなくそう言うとそのままベッドへと倒れ込む。

自分のベッドがやっぱり一番落ち着く。

 

シャワーを浴びなきゃ・・そう思いながらもうとうとしてしまう。

1人暮らしなせいかついついルーズになりがちだった。