【愛染刹那】

 

下心がなかったわけじゃない・・・だがその時の俺は頼られて悪い気はしなかったし、紗希のように裏表のない女ばかりじゃないってことを失念していたんだ・・・

 

佐久家は名士だけに立派な屋敷だった。

和製ヴェルサイユと噂される我が家とはまた違った趣の古式ゆかしい日本家屋と門構えの家だった。

 

軋んだ音を立てて重厚な門が開く。

最寄りの駐車場に車を置きここまでは徒歩で来たが、近所の目を憚ったからだ。

 

「来てくださったのね・・・刹那さん」

 

こんな広さなのに屋敷の中は閑散としており、使用人の姿も見えない。

 

出迎えてくれた葉子さんの後に続き屋敷の中に踏み入れようとした時、背後から名を呼ばれた気がした。

 

―――刹那君!!

 

紗希に呼ばれた気がして振り向いたがもちろん誰もいなかった。

 

「刹那さん・・・?」

 

促す葉子さんに頷き返した俺はいつになく緊張をしていたことに気づき内心苦笑する。

 

・・・背後で門が締まった時生じたかすかな後悔から俺はそっと目を背けた。