【北條紗希】
覚悟を決めて「とくそう」の部屋に戻った私は、纐纈さんと新美さんに合図を送ると無言で刹那君の元へと向かった。
片手で椅子を引き出し刹那君に向かいあい彼の目線に合わせるように腰掛ける。
反応を返さない刹那君の注意をまず引いた方が良さそうね・・
→顔の前で手を叩く
常人なら突然大きな音を立てたら驚くはずだけど生憎と刹那君にはあまり効果が見られなかった
ああ・・ダメだこれではつけ入る隙がないじゃない
あまり気はすすまないけど・・・
→「
相が出てる」とずばり指摘
「ずばり言うけど相が出てるわよ」
しかし刹那君は「こいつ何言ってんだ」とムスっとしてしまう。
「悪い冗談だぜ紗希」
相手の反応を見るためとはいえとりあえず動揺は誘えたようだ。
しかしただでさえ不安定な刹那君を必要以上に追い詰めたくなかった。
ここはやはり相棒として振舞うべきだろう。
悩んだ末私は刹那君の肩にそっと手を置いた。
本当は抱きしめた方が良かったのかもしれない。
でも相手の表情が見えなくなるからできなかった。
だから根気よく声をかけるにとどめる。
けれどやはりいつもとは勝手が違う。刹那君は犯罪者ではないし、彼自身自分の身に起きた出来事を正確に把握していないからだ。
それでもこのまま放置することはできなかった。
「刹那君・・ねえ、いったいどうしたの?具合が悪そうよ」
そう問いかけたらやっと刹那君がこちらを見た。
「・・・・別に・・・いつも通りだろ?」
なんとか会話のキャッチボールは成立するようで安堵しながらも慎重に進めるしかない。
これだけ具合が悪そうなのに本人は自覚がないようだ。それは死霊にとりつかれている者の顕著な特徴に見えた。
ならばこの手段は有効かもしれない