【愛染刹那】

 

一方、チャイムを押した刹那はいつになく気が昂るのを感じていた。

 

紗希と話したことでモヤがかかっていた頭は冴えていたが、葉子に気力を削られたせいかまだ本調子とは言えなかった。

 

――きっちり終わらせねえとな

 

下手な同情をすれば負の力に引きずられてしまうことは痛感していた。

 

佐久葉子と言葉を交わしたのは数えるほどしかなかったが、彼女に惹かれながらもその人となりを聞かれれば答えられなかった。

これがいわゆる暗示の効果なのかもしれない。

 

だが彼女の全てを知らずともわかることはある。

 

それは・・・

 

→佐久葉子の善一への想いだ

 

彼女は間違いなく善一を愛していると思う・・だが善一が寝たきりになってしまい彼女を気にかける者もいない。

 

ワンマンだった善一は一代であの財を築いたが、誰も信用せずに親族とも疎遠だった。葉子もまたすでに両親は他界しているのだということだった。

 

だからこそ葉子は孤独だったのだろう・・

 

相談に乗って欲しいと葉子は言ったがこの屋敷に来た時以降プツリと記憶が途切れている。

 

そんなあやふやな状態だったなんて恐ろしいが、辛うじてまだ俺は生きている。

 

あやうくあいつらを悲しませちまうところだった。

あいつらっていうのはもちろん・・じいややヨミ、それに真綾もだが・・

 

――刹那君!

 

俺の相棒・・紗希のことだ。

 

相棒の死にトラウマを持つあいつのためにも!

 

―――俺は死ぬわけにはいかねぇ!!!