【愛染刹那】
重厚な門の狭間に和装姿の葉子さんが佇んでいた。
「来てくださったのね・・・刹那さん」
いつもより早い時間だったが、葉子さんが姿を見せたことにひとまず安どする。
静かに微笑む葉子さんの腹積もりは読めなかったが、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。漢刹那覚悟はとうに決まっていた。
「ああ・・・来たぜ。今日はあんたに話があってさ・・いいかな」
断わることはないだろうと思いながらも念を押すと葉子さんは頷いた。
思わず武者震いが出る。
葉子さんの後に続いて屋敷の中に足を踏み入れた時、懐にしまったお札が熱を帯びた。
―――っ
その熱さに動揺する一方、いつもならとっくに意識が混濁としてしまう段階だったがまだ意識を保てていた。
ちょうど深酒した時のような酩酊状態にも似ている状態だったが、ふらつく足取りで葉子さんの後を追うことしかできない。
それにしてもいかに自分を見失っていたのかを改めて感じた。