【愛染刹那】
長い廊下を通り、奥の間でやっと葉子さんは足を止めた。
背を向けたままこちらを窺いながら佇んでいる姿はまるで見返り美人のようだった。
「なあ葉子さん、あんたは俺になにを望むんだ・・・相談したいことがあるって言っただろう?」
おそらくそんなの俺を釣る為だけの口実だろう・・しかし葉子さんの口から聞きたかった。
だから嘘だとは決めつけない。紗希が嘘で相手を揺さぶり相手の嘘を暴くなら俺は基本的に相手を信じるスタンスだからだ。
すると葉子さんはゆっくりとこちらを向いたかと思うと静かな足取りで少しずつ近づいてくる。ただの女のはずなのにゾクリとした。
「・・・刹那さんは優しいのね・・貴方はとても温かい方だわ・・・だからこそ私の力になってくださる・・って思った通りの方だった」
手放しでほめられることには慣れていないからむず痒い気分になる。
葉子さんの声には感謝が滲んでいたが、それならばなぜこんな不可解な気持ちになるのだろうか?どこか底知れなさが滲んでいるのだ。