【愛染刹那】

 

 

朦朧としてその場に頽れた俺を葉子さんが抱きしめながらこれまでのことを語りだした。

 

この場所で起きた光景が断片的に脳裏によぎった。

 

昏睡状態になってしまった善一は幾度も危機的状況になったが、その都度葉子は生気を注ぎ善一を生かしてきた。

 

その犠牲になったのはこの屋敷で働いていた使用人達だったという。

 

もともと身寄りのない者達だったから誰も彼らを探さなかった。

 

彼らは恩義のあった善一に自ら命を捧げたのだ。一人を除いて・・・

 

そうしてなんとか善一の命を繋いできた葉子だったが・・・

 

使用人もいなくなり葉子は追い詰められていた。

 

ついにある夜彼女を思わぬ悲劇が襲った。

病院から戻った葉子はちょうど居合わせた強盗に・・・・

 

そして亡くなった葉子だったが愛する善一のために生気を集めなければという使命感が彼女をこの世に繋ぎとめたものだった。

 

ほんの顔見知りでしかなかった俺と病院で会ったあの日・・・

ふと魔が差した葉子は俺に声をかけた。

 

「あの人には私しかいないの・・・だからごめんなさい・・刹那さん・・・」

 

優しい声でそう囁く葉子さんに応えることはできなかった。

 

――――紗希・・・・すまねえ・・・

 

そこで俺の意識は完全に途切れたのだった。