【北條紗希】
「なるほど・・・そういうことか。ならば行こうか北條!愛染が危険だ」
そうだ・・悠長に推理をしている場合ではなかった。
相棒の危機にいつも以上に冷静ではなかったのかもしれない。
焦燥が募ってゆく・・・
ブラインドマン事件、隙間女事件・・・怪異を起こすのは結局人の業だった。
頷いた私は纐纈さんと新美さんとともに屋敷への潜入を試みた。
意外だったが門は開いていた。それがかえって警戒心を呼び起こした。
まるで本当に廃屋のようだった。
一際暗くなった敷地内に足を踏み入れると異界に来たような心地になった。
嫌な予感が的中してしまったようだ。
庭を通り抜けようとした時のこと、そこかしこにあった盛り土が見る間に盛り上がったかと思うと地面から空を掻く腕が突き出たのだ。
それはまぎれもなくゾンビだった。おそらくこの屋敷の使用人の慣れの果てだろう。
「おい!北條!ここは俺達が食い止める!!だからお前は愛染を頼む!・・いけるな心?」
荒事が苦手な相棒の新美さんに確かめる纐纈さんに「もちろんです将さん!」
と躊躇なく新美さんは言い切った。
細身で童顔だが気質は軟ではない人だと思う。
まさに阿吽の呼吸だった。二人の手にはお札で強化した警棒が握られていた。
如月先生が伝授したものだ。攻撃は最大の防御というやつだ。
背中合わせでゾンビと対峙しながら荒事を引き受けてくれた纐纈さんと新美さんに私は心の中で頭を下げると背後を振り返ることなく駆けた。