【北條紗希】
「やめて・・・やめて!!」
勝ち誇る葉子を前に成すすべもなく思わず感情のたががはずれそうになったその時だった・・・
―――葉子・・もういい・・もういいんだよ。お前との約束を果たす時がきたようだ。
声なき声を聞いた気がして庭を見ると薄闇の中に佇む人影が見えた。
「あれは・・・」
それは佐久善一だった。
だが向こうが透けて見えている。すでに善一がこの世の者でないのだ。
「・・貴方!!・・・ああ・・・そんな」
善一の死は葉子にとっては衝撃なものだっただろう。
両手で顔を覆いむせび泣く姿は憐憫を誘うものだったが、刹那君の命を脅かしている以上同情はできなかった。
やがてつきものが落ちたように葉子はすくりと立ち上がると、こちらへと深々と会釈した。
そっと横たえた刹那君をその場に残して夫の元へと足早に駆けて行ったかと思うとそのまま靄のように消え去った。
しかし感傷に浸っている暇はなかった。入れ違うように刹那君に駆け寄ると崩れ落ちるように覗き込む。
ゾンビを制圧できたのかちょうど纐纈さんと新美さんも駆けつけてくれた。
「愛染は無事か!!」纐纈さんの怒号が飛び
「意識がないようです!すぐに救急車を手配します!」と新美さんが応じた。