密偵から折に触れシリーンに関する報告は受けていたが・・
彼女は砂原での活動に勤しんでいるらしい。
砂原か・・それは彼女の望郷の念の表れに思えてならない
雄大な砂漠に嫌気がさしてもまたあの場所に戻りたくなるものだ。
帰るきっかけがないならばならば私自ら赴ききかけとやらを作ってやろう・・
「ライザール様、本当に行かれるのですか?」
私同様ベールで顔を隠した我が友に留守番を頼むことにした。
いわゆる影武者というやつだ。
「ああ・・私だって心は狩人だからな。狙った獲物を逃がす気はない。だから後は任せたぞ・・ライザ」
義賊をしていた頃の服装に着替えた私は王に見えないだろう。
荷物は少ないが必要なものは現地調達すればいい。
今回ばかりはオトモのカルゥも留守番だった。見慣れないモンスターを連れ歩くといやでも目立つからだ。王の権限を行使できない場ならなおさらだな。
置いていかれることに不満そうなカルゥを撫でてやると甘えた声を出した。
大丈夫・・必ず戻って来るさ
今回の旅だがもちろん目的は他にもある。あの地域の特産品のロックローズをこの目でみる良い機会だった。鉱山王と称されるだけあり審美眼は持ち合わせているからな。
そうして宮殿を抜け出た私だが、少数精鋭がひそかに護衛しているのは承知で知らぬふりを通したままカムラの里に無事到着した。
どこか懐かしさを感じる温もりに満ち溢れた里だった。
我ながら好奇心が疼いてしかたないな。屋台を冷やかしそぞろ歩きをしたいものだ。
お忍びとはいってもまことしやかに噂になるものだが、何を隠そう情報の発信元は私だった。
酒場で知り合ったハンター連中の耳にそれとなくいれておいた。
「なあ知ってるか?シャナーサとかいう国の王が近々来るらしい。お前なにか知らないか?」ってな。
もし噂を耳にすればまた彼女はこの場所を去ってしまうかもしれないが、噂はあくまでも噂でしかない。
第二の故郷というべくこの場所を捨て去るには惜しいはずだ。