※店主視点です

 

ライザールと手を繋いだシリーンの姿が昇降機に消えていくのを見送った私は隣室の隠し部屋のドアを見やった。

 

この場にとどまったのはまだやらねばならないことがあったからだった。

 

カードキーを使いドアを開くと消灯した部屋の床にくずおれた女の姿があった。

 

よほど恐ろしかったのか粗相をしたらしく床が濡れていた。

状態観察がてら女を覗き込む。

 

涙で化粧がはがれたその顔はアイーシャの死の影響で変貌をとげていたがどうやら稚拙な魔術では補いきれなかったらしく整形手術も受けた痕跡があった。

 

シェーラの顔をまとった女をこのまま帰すことはできなかったから部下に命じて確保しておいた。踊り子たちにも暗示をかけたから「彼女」の顔を覚えているのはライザールとシリーンとジェミルだけでいい。

 

魔術書を盗むような手癖の悪い女だが、あの日私が応対した客こそ彼女の親が寄越した代理人だったなんて皮肉な話だ。おそらく親が探していることであの場に長居できないと悟り強行に及んだのだろう。

 

このまま美しい姿で赤の他人に成りすまし生きていけると考えていたようだが・・

 

定着しない魔術のせいで化けの皮がはがれることを恐れながら、アイーシャからもらった彼女の血を飲み持たせていたため命令を拒むことはできなかったそうだ。

 

接客で留守にした間に部屋に侵入して魔術書を持ち去ったアスラの正体こそ王との婚約を厭い駆け落ちしたが、わがままが過ぎて男に捨てられたあげく実家に戻ることもできずにマイルズにすがったレイラ・アリだったのだ。

 

だがアリ家の依頼は受けてしまったから親元に無事帰さねばならない・・

 

彼女の顔面を片手で覆うとレイラが小さな悲鳴をあげたが抵抗はなかった。

 

交じり合っていた顔を整え元の顔に戻す。取るに足らない凡庸な顔の女だった。

 

シリーンを成りすまさせて王宮に送り込む時に調査対象だったことが幸いしたようだ。

 

今後もアリ家とは持ちつ持たれつ良好な関係を保持できればいい。

 

余分な記憶も消去しておいた。