私の前に何食わぬ顔をして現れた偽物の婚約者は絶世の美女だった。

 

どこで見つけてきたかは知らないがアリ家も手ごわいことをする。

だが大事なのはこの婚姻により私が得ることができるものだ。

 

熾烈な覇権争いに業を煮やし、気が進まないながらも婚姻により打破する道を選んだことに後悔はなかった。

 

だが肝心の娘のレイラ・アリが私との婚姻を拒むとは。

私の思惑など女心の気まぐれの前にあっけないほど簡単に瓦解してしまったなんてお笑い種だった。

 

今更レイラを連れ戻す気は起きなかった。あの娘は愛する男を選び人生の選択をしたのだからその邪魔はすまい。

 

だが諦めきれないのは私だけではなかったらしい。

なんとアリ家は替え玉を送り込んできたのだ。

だから私も素知らぬ顔でのっかることにした。

 

王の寵愛を得るために用意された偽物だけに麗人だったが、あろうことか彼女は手っ取り早く私を篭絡するための手段を持ち合わせていた。

 

どういうつもりだ

 

この私に男の欲情を誘うヘナタトゥーを使うとは・・・愚かな女だ。

 

かつて捜索のために訪れた娼館であれと同じものを見た覚えがあった。

 

若い娘達がこぞってあのタトゥーを肌に施し男達を誘惑していた。

効果のほどはそれこそプラシーボに過ぎないが、中には違法な手段で男を虜にした挙句正気を失い刃傷沙汰に及んだり、男達に弄ばれて破滅した娘達もいた。

 

さっきのあれは間違いなく危険な後者だ。自覚があるのかはわからないが、まとった者を破滅に追い込むヘナタトゥーに違いない。

 

いずれにせよろくなものではなかった。

そんなものを施政者として見過ごせるはずもなく断固許すことはできない。

 

雇い主の為に使い捨ての駒にされていることもわからない哀れな女達の誘惑などのる価値もない。

 

共犯者にされてたまるか!

 

だがそうは言ってもその手の誘惑は後を絶たないからヘナタトゥーを落せるオイルは常に用意してあった。

 

自分を大切にしない女は不快でしかないが、差し向けた者達の思惑はどうあれ女達を庇護するほうが先決だった。