※ジェミル視点です

 

だけど俺にだって人を愛することができるってことが嬉しかった。

 

あいつは俺をずっと「弟」扱いするようなひどい女で、今やライザールに夢中だ。

 

この想いが成就しないことは俺自身が一番わかっているのに・・

 

しかも俺は長い事ライザールが俺の親父だって思っていた。

おふくろは世事に疎くて純粋な女だったから相手の男について

あまりにも知らな過ぎたんだ。

 

お母さん昔ね、王子のライザール様と結ばれたのよ・・?

そうして貴方を授かったの・・・とても嬉しかった。

 

そういって微笑むおふくろを責めるなんて俺にはできなかった。

母体として利用されてきたおふくろの夢を壊す必要は感じなかった。

 

だけどシリーンがよりにもよってライザールをターゲットにするなんて・・

 

どうにかして妨害したくて襲撃したが、ライザールは見掛け倒しな男ではなかった。

 

武闘派のライザールと一騎打ちをするには分が悪すぎた。

 

だけど手を下さなくてよかったのだろう。

もしアイツを失えばシリーンを苦しめちまうからな・・

 

『シリーンがお前を男として愛せたら良かったんだがねえ・・あの子はお前を「弟」にと望んでしまった。あの娘の言葉はまるで言霊のような不思議な力があるんだよ。ならば眷属として従うしかないだろう?私もお前もね・・・』

 

シンボルを無効化でき王族の血を引く俺ならばシリーンをあのタトゥーから解放できたのかもしれない。

 

だがシリーンが選んだのはライザールだった。

 

どれほど悔しくてもそれがシリーンの望みならば俺には邪魔できない・・・

 

アイーシャの企みがなされればシリーンもライザールも地獄を見るに違いなかった。

 

クソッ!!それだけはさせっかよ!!

 

一瞬ライザールに知らせるべきか迷ったが、アイーシャの思うつぼになることを恐れた俺にはむざむざ加担することなどできなかった。

 

あの二人が揃わなければなんとかなるはずだ・・・

 

だけど・・嫌な予感がする。もしすでにシリーンがアイーシャの手に落ちてるならば人質にしてライザールを呼び出すことなんて簡単だろう・・

 

あの女の常とう手段だ。

だがこれ以上好き勝手をさせるつもりはなかった。

 

いざとなったらあの女と刺し違える覚悟でアジトへと向かうことしか今の俺にできることはなかったのだ。

 

 

 

2021年4月2日公開