※ジェミル視点です
だが所詮あの二人も使い捨ての駒でしかない。
あくまでもアイーシャの本命はシリーンだった。
だから俺はどれだけ屈辱でもあの女の傍に留まる道を選んだ。
店主にはすぐに思惑を見抜かれたが、奴は俺のシリーンへの思慕を知るだけに知らぬふりをしていた。
『アイーシャのことは好きにさせなさい・・放っておいてもあの女は自滅するだろう』
店主もアイーシャも俺にとっては大差ない連中だったが、
シリーンが・・あいつにとって店主は「父親」だったから俺には奪えなかった。
シリーンは俺が唯一愛した女で・・そしておふくろが産んだ「姉」のような存在でもあったから・・
その昔おふくろが産んだもう一人の「姉」はアイーシャの施したヘナタトゥーが原因でライザールに・・・・
だけど実感がなかった。喜怒哀楽なんてずっとなかったから・・
長い事おふくろの悲しみにも共感できなかった。
だけどシリーンに出会って俺は初めて感情を得たんだ。
喜びも痛みも俺に教えたのはあいつだった。
あいつだって喪失を経験していたのに・・
俺の手を握り締め微笑みかけてくれたシリーンの屈託のない笑顔を見た時、俺の中で劇的に何かが変わったんだ・・
はじめは自分の変化が怖くてしかたなかった。
傷ついたり臆したり・・そんな感情は知らなかったからだ。
弱くなったと苛立つ心を抱えてた時もあった。
暗殺者に甘さは必要なかったから・・あっても苦しむだけだ。
そんな感情なければずっと楽だったろう。
2021年4月2日公開