※シリーン視点です
その顔は美しく老化の気配は見受けられなかった。
「そんなに焦らないでシリーン・・まだ役者は揃ってないのだから。一人で来るなんて驚いたわ・・・だけどこちらにとっては好都合よ」
異変を感じた時には手遅れだった。
この甘ったるい香り・・覚えがあるはずだった。
この香りは金梅の芳香だったのだ・・おそらく抵抗を奪うための複雑な調香をされているのだろう。
「どう気に入った?美蘭も役に立つことがあるなんて驚きだけど・・・皇子様の元婚約者だっただけはあるわ・・それがどういうことかわかるでしょ?」
皇驪様さまの・・・!?ああ・・なら恨まれてもしかたないわ。知らずに彼女の想い人を寝取ってしまったようだ。皇驪様との同意があったとはいえ、恋人のいる男とは寝ないというポリシーに反してしまった。
正気を失うほどではないけれど濃密なその香りに足元がおぼつかなくなるのは時間の問題だった。
「どうやら効いてきたみたいね・・だけどこの香りにこれほど抗える女はめったにいないわ・・褒めてあげる。ねえこんな言葉を知ってるかしら?飛んで火にいる夏の虫って・・アスラを使ってあの男をおびき出すのは失敗してしまったけれど、貴女のためならばどんな場所であろうと駆けつけてくると思わない?」
やはり娼館での一件は仕組まれていた。
その可能性を考えなかったわけじゃない。でも敵を甘く見過ぎていたらしい・・
後悔しても遅すぎた・・
――ライザール様!!来ては・・ダメよ・・・それとも・・助けてというべき・・かしら・・
けれどもはや声を出すことも叶わないまま私の意識は闇に沈んだのだった。
2021年3月31日公開