「おや、気を悪くなさいましたか?ご無礼をお許しください。貴女は王に選ばれたのです、それが紛れもない事実ですよ。ですが・・貴女がどなたを選ぶのか・・気になりますね」

 

 

――え?

 

ハッとなりまじまじと見つめ返した私の手の中に素早く水煙草商人が小さく折りたたんだ紙片を握らせた。

 

「今宵は満月だそうですよ・・・ぜひ中庭でご覧になってはいかがですか?」

 

しかし水煙草商人はそう言い置くとその場を去ってしまった。

 

それは私とジェミルの間で取り決めた合図だった。なぜそれをあの男が知るのだろうか?

 

偶然である可能性だってあったけれど、あまりにも意味深すぎたのだ。

 

ジェミルの協力者なのかもしれない・・

しかし追及をすることはできなかった。

 

「随分話混んでいたが、あまり関心はしないな」

 

気づいたらライザール様が背後に立っていた。

彼の言い分はけっして不当ではなかった。

婚約者の立場を弁えるべきだった。

 

そう思いながらも咄嗟に紙片を握り締めた左手を背後に隠しながら、笑顔でごまかす。

 

するとライザール様が空になったカップを私の手から取り上げたかと思うと通りかかった給仕の盆の上に戻された。