このシャナーサ国ではかなり大胆な発想だった。

 

親が決めた許嫁の元に嫁ぐのが一般的だったし、恋愛という概念すら希薄だった。

 

家名と財産を守る為だけに結婚して外に愛妾を囲う・・それがこの国の常識。

 

生娘じゃない女は婚姻すら難しい・・だからライザール様から求婚された時は本当に驚いたの。

 

あの方は過去の男達に嫉妬はしたけれど私を責めたりはしなかった。

 

それより出会えた幸運を喜んでくれたこと・・嬉しかったわ。

 

ともかくバザールにいたらそんな話はいくらでも聞けたから店主様の言葉は私を困惑させた。

 

初恋をささげるのじゃダメなの?って聞いたら店主様は困ったように微笑まれた。

 

「それは相手によるかな・・君のタトゥーは手ごわいからね。簡単に落とせるような相手ではきっとダメだよ」

 

まだ恋もキスも知らない初心な私には店主様のお話しは半分もわからなかったけど、だけどほどなく試す機会が訪れたの。

 

相手は当時シャナーサの王子だったライザール様よ。

供を連れ市内を散策していた彼と出会ったのは14歳の頃だった。

 

健康そうな褐色の素肌に煌めく琥珀色の瞳の彼はとても素敵だったわ。

 

「美しい花だ・・もらおうか。ほら・・これでいいか?」

 

銀貨なんて初めて見たから内心驚いたけれど、私は受け取らずに花を差し出した。

 

可憐なこの花は想い人に贈る花だったからよ。