思い出は美化されてゆくものだろう?

 

シリーンと再会できたとしても私を好きになるとは限らない。

また私だってシリーンを愛せるかはわからないんだ・・

 

だがお前は幻なんかじゃない。血の通った愛しい女だ。

私は蜃気楼を追い求め不毛な砂漠を彷徨ったりはしない。

 

すでに大事なものがなにかわかっているからだ。

 

国と民のために心血を注ぐ私だが、もてるものは僅かなものだった。

 

名を捨て偽りの身分を受け入れたが、相棒のカルゥだけは本当の私を知ってくれていた。

 

もちろんライザも承知ではあったが、彼の意志を継ぎ名を捨てたのだから必要とされているのは義賊のライラ・ヌールではなく王としての「ライザール」だけだ。

 

母はとうに亡くなったから、あと私を知るのはシリーンだけだった。

もしシリーンが知れば驚くだろう。

 

だがかけがえのないシリーンを喪失したことで私はこの国を抜本から改革しなければならないと思い至ったのだ。

 

あんな思いを二度としたくなかった。

だからシリーンと出会えたとしても彼女の知る私ではないし、

彼女を幸せにできたかはわからない。

 

王となった私の肩には万人の命がかかっている。

けっして楽な道のりじゃない。

 

責任重大な私が偶然出会った成りすました女を愛するようになるなど思ってもみなかった。