ライザール様はあくまでも礼節にのっとり私に接してくれたけれど、そこに情が介在しているかはわからない。シニカルな笑顔の仮面をつけた彼の心をうかがい知ることは難しい。
ただ王妃として相応しくあらねばならないと釘をさされただけだった。
ずっと踊り子と密偵を兼任していた私にとって、恋愛も王妃の立場も荷が重いものでしかなかったが今更おりることはできそうになかった。
もし身分詐称が露見すればそれは破滅を意味したからだ。
これまでも露見しそうになったことはあった。
血を採るために誘惑した私を訝しんだライザール様から拘束されて寝台で取り調べをうけていた時のことだった。
仲間のジェミルがライザール様を襲撃する現場に居合わせてしまったのだ。
失態を見かねたジェミルの独断だったけれど、目の前で殺意に絡めとられるライザール様の苦悶の表情を見た瞬間、私は悲鳴をあげていた。
あの瞬間、私はライザール様を選んでしまったのかもしれない。
悲鳴を聞きつけた衛兵が駆けつける気配を察したジェミルは暗殺を諦め撤退したけど、ベールに隠されたその目はきっと私の裏切りを責めていただろう。
ごめんなさい・・ジェミル
幸いライザール様はご無事だったけど、彼は私を疑いながらもジェミルの追撃をするためにその場に私を残し去ってしまった。
結局ジェミルを発見することができずにライザール様は戻って来られたあと、放置していた私を解放してくださったけど苛立ちを隠そうとはなさらなかった。
あの後襲撃者の暗殺未遂の話は宮殿内で様々な憶測を呼んだけれどジェミルの行方はようとして知れなかった。