そんな中途半端な状況の中で仮面夫婦をすることになるなんて・・
熟睡なんかできるわけないじゃない・・・
そこまで図太い女じゃないもの・・
ライザール様の夜遊びの目的もわからない・・ジェミルの行方だってわからない・・
本当に前途多難だわ・・・
そんなことを考えていたらカタリと音がして、ライザール様が戻られた気配がした。
寝たふりをしながら薄目で伺うとライザール様の姿が薄闇に浮かんでいた。
黒い装束姿で口元をベールで被う姿はなんだか盗賊に見える。
逞しい二の腕に刻まれた深い傷跡は古いものだったが見るたびに痛々しいと思う。あれは獣の傷跡だった。
ライザール様の愛玩動物である黒い獣・・・カルゥがつけたものらしい。
これまで大きなけがをしたことがない私にはその痛みは想像すらつかないものだった。
そのカルゥも夜毎の夜遊びに同伴されているが、今夜も一緒だったようだ。
いかに王といえどあんな黒い獣を連れ歩いていたら噂にのぼりそうなものだが、町にいる間そんな噂はついぞ聞かなかった。
夜陰に紛れて散歩してるのはそのためなのかもしれないわね。
新婚の妻よりペットの方を大事になさるなんて・・
呆れればいいのか悲しめばいいのかわからなかったが、あの獣に対するライザール様の愛情は本物だった。
孤高の王にも大切に思える相手がいるのね・・
それがなんだかひどく羨ましく思えたし、嬉しくもあった。