私はいつも留守番だけどライザール様は1年の間に幾度なく外遊して不在なことだってあった。

 

王ながらフットワークの軽い方なの。それに主だった国の王族の方々とも次世代会議を通じて誼を結ばれたことで影響力もあった。

 

香水指輪

その時々の滞在先の国から手紙を送ってくださり、帰国の際は土産のしゃれた香水瓶や宝石を贈ってくださったし、常に気にかけて下さっていた。

 

忘れられたわけじゃなかった。

 

ライザール様の肉厚な筆跡に指で触れて、真心のこもった手紙を繰り返し読みながら彼の帰りを待ちわびたものよ。

 

訪れたことのある国の情景を思い出しながら心の中で彼と旅をした。

 

だけど・・・寂しさを拭い去ることはやっぱりできなかったの。

あんなに激しい恋をして結ばれた方だった。あの頃の情熱はまだ私の胸にあったし、ライザール様を愛していたけど・・

 

離れてしまうと時折小さな子供みたいに不安な気持ちがこみ上げてしまう。

 

おそらくこれは長い別離を余儀なくされた過去のトラウマに起因する不安だった。

 

あの方は私を愛しているし必ず帰ってきてくださる・・

そう思っても一人寝台に横になって、夜中に目覚めた時、隣に彼の姿がないとふいに孤独を感じてしまう。

 

旅先で一人寝をするライザール様もこんな気持ちなのかしら・・・

私の事を思い出してくださってる・・?ライザール様

 

そんな風に語りかけて辛い夜をやり過ごしていたある日のこと・・・

 

時折ヒラ―ル宮を訪れる御用商人から珍しい美術品を見せてもらっていた時のことだった。

 

鏡

 

一際怪しく輝く手鏡に魅了されてしまった私が尋ねると、商人は笑顔で答えた。

 

「これは「真実の愛の鏡」という魔鏡でございますよ、持ち主の願望をかなえるとか・・」

 

ありがちないわくつきの品と言うわけね。これでも美術品の目利きには自信があった。