「では今日はこれをいただくわ」

 

華麗な彫金細工を施した手鏡だったが、古いとは思えないほど鏡面はくもりもなく覗き込んだ私の笑顔が綺麗に写り込んでいた。

 

「それは古の魔導師が作った本物ですから扱いは慎重になさるように」

 

商人はそう忠告したけど・・

 

我ながらいい買い物をしたわ。

贅沢はする気はなかったけど時折頑張ったご褒美にこうして踊り子をしていた時に稼いだ貯金を崩して買い物で鬱憤を晴らしていた。

 

私だけのひそかな楽しみというやつよ。

 

商人の話では手鏡を覗き込んだ者の願望を見抜くようだけど・・

 

・・ふふ、まさかね。

 

もちろんそんなはずない。

ただ・・・笑顔の練習をするのにいいでしょう?

 

不安が透けて見えてはいろいろ勘繰られてしまうのが王宮だったから。

 

心から笑ったのはもう遠い昔のことのようだわ・・

私はもう無邪気な子供ではないし、辛いことも多かった。

 

今は幸せだけど・・

でも満たされているとはいえないかもしれないわね。

 

ライザール様はお忙しいから会いたい時にいつでも会えるわけじゃない。

 

国におられる時は1日に数回私の元にお渡りになってご機嫌伺いに来てくださるけど・・・

 

時間がなくて触れ合う機会は減ったかもしれない。

もう私に飽きてしまったの?って不安になった時期もあったわ・・

 

だけどどれだけ不安でも我がままを言ってライザール様を困らせたくはなかった。

 

愛も欲望も私の中にあるのに・・渇いていたの