密偵だったとはいえ彼女はまだ男を知らないようだったし、初心な彼女の手解きに戸惑いを感じたのは私もだったが、ささいな後ろめたさなど欲望の前ではあっさりと消え去り私は彼女を抱いた。
思えば女を抱くのは久しぶりだったし、長年思いつめた相手だけに感慨もひとしおだったがそれは彼女も同じだったようだ。
私を信頼して身を任せてくれたが、初めてだけにさぞきつかったことだろう。
本当に私でよかったのか?シリーン
幾度も心の中で問いかけたが彼女は最後まで拒まずに私を受け入れてくれた。
知り合ったのは私が先だったが、奴がずっと彼女の心の支えになっていたことを知りながら奪う形で一線を越えてしまったことに後ろめたさはあった。
もし私が誘惑しなければシリーンは奴と愛を育めたのかもしれない。
まだ若い分衝動的で未熟さは否めないが、10年後20年後を見据えた時シリーンは奴ではなく私を選んだことを後悔する時がくる可能性はあった。
詮無き事だと思う一方で圧倒的な幸福の渦中にいながら不透明な未来に臆すのは私も変わらない。
この世に絶対などあり得ぬし、互いに心変わりしないとも言い切れない。
それでも私は、私を選び愛を捧げてくれたシリーンを愛していた。