一度だけ親善に訪れたヴィンス王とお会いしたけれど、ほろ苦い懐かしさはあっても私の心はとても穏やかだった。

 

夜のしじまが訪れた庭園を臨むバルコニーで彼と言葉を交わした。

 

「変わったな・・お前・・いやシリーン王妃。手放したこと今更後悔はないが、お前の行く末を案じていた身としては肩の荷が下りた。」

 

驚いた・・まさか案じてくださっていたなんて・・

多くの男達と浮名を流したせいで彼には随分迷惑をかけてしまったのに・・

 

「お前を傷つけてしまった俺ではきっとお前が真に望むものを与えることはできないのだと認めるまで時間を要した。際限のない欲望でお前が壊れる前に手を打たなくてはと思っていたが、そんな折ライザール王からの親書が届いたんだ」

 

え?

 

「他国の王までお前の虜なのだと苛立ちもあったが、真剣にお前を案じる彼になら託せると思った。どうやら無事幸せを掴めたようでなによりだ」

 

ヴィンス様・・・やはり貴方は・・高潔な方だわ

 

「ええ・・今とても幸せです。だからもう私のことはお忘れください・・」

 

もう暗い過去にとらわれないで欲しかった。私達はすれ違ってしまったけれど・・

 

それでも貴方の幸せを祈ることはできる・・・

 

「ああ・・そうさせてもらう。・・・ふっ・・・俺も丸くなったものだ」

 

ふふ・・・確かに。

 

きっと彼は今とても充実した人生を送っているのだろう。

 

王としての自負に満ち溢れた彼は眩しくて初めて会った頃を思い出せた。

 

私にはヴィンス様を幸せにはできなかったけれど・・

 

もう私は平気です。傷が完全に癒えることはきっとまだまだ時間がかかるだろうけど・・

 

それでもライザールさまとなら手を携えて生きてゆけるから・・

 

だからもう心配なさらないで・・