随分思わせぶりな態度だが・・誘惑したいわけではないらしい。
ライザがいては話しにくいことなのだろうか?
私を警護する名目とはいえシリーンの粗探しをする男だから。
「ライザ・・少し外せ」
案の定警護を請け負っているライザは難色を示したが王命は絶対だった。
奴が姿を消したとたんシリーンはどこか安堵したかのようにため息をついた。
優れた密偵だけに互いに水面下で牽制しあっているからだろうか。
密偵としてのシリーンも気に入ってはいるがやはり私の前くらい女でいて欲しいものだ。
シリーンを誘いテラスに移動する。周囲は人払いされていた。
「やっと二人きりになれたな・・」
「ええ・・本当に。御覧になってライザール様、今宵の月はとても綺麗ですわ」
青ざめた月が彼女の美しい素肌を際立たせていて、なめらかで温かな素肌が恋しくて私はまた彼女が欲しくなった。だが今宵の彼女はどこか触れ難いものがあった。
恋焦がれても触れることは叶わない。
月の魅力とはそういうものだろう?
砂漠で見る月は美しいがあまりにも遠い。
王であっても手に入れられないものがあるのだと知らしめる。
愛も月と同様の抗いがたい魅力的なものだったが私には縁遠いものだと思っていた。
シリーンに出会うまでは。