数百年後・・
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塔を悠々と伝う巨大な蛇の姿があった。
そもそもこの塔を登り可愛い我が子の様子を見るためだけにこの姿を得たのだ。
前世の業もあったかもしれないが・・恐怖は教えていないから偏見のない彼女は私を恐れないし厭わなかった。
あの子と交わした約束だったから・・
それは時折気まぐれにこの塔を登り塔の中の忘れ去られた少女を見守っていたのだ。
私も訪れず退屈したためか彼女は金色の卵の中で冬眠することにしたようだ。
髪からできた黄金の繭の中で彼女は成熟してさぞかし素敵な淑女に育ったことだろう。
蛇の性か思わず飲み込んでしまいたくなる衝動を抑えなければならなかったが、時期は熟したからそろそろ彼女も目を覚ます頃だろうか。
理想の自分になるために努力する・・本当に素晴らしいことだ。
そんなことも露知らず、幻の塔の中に残されたシリーンの金色の髪から生まれた魂のない現身の少女はある日突然微睡から目覚め変化せぬ日々に別れを告げようとしていた。
何者にもなれず何者にも求められなかった彼女だが髪の隅々にまで染み込んだ愛する者への想いの名残が彼女の背を押したのだ。
彼女は髪から生まれた女だった。けれどただの髪ではなく錬金術の錬成品だけに黄金にもメッキにもなる代物だからいまだ不完全な存在だったが「真実の愛」で満たされることを求めていた。
「ここを出なきゃ・・」
下界に行けば望む「愛」を手に入れられるだろうか?
わからない・・
だけど・・私も愛を得たい・・
優しい彼の微笑み、髪を好いてくれた優しい手を覚えているわ・・
私を置き去りにしたもう一人の私は無事愛を得ただろうか?
もしそうならば私は愛を得ることはできないかもしれない・・
だってあの方が愛したのは「本物の私」だったから・・
ここにいては見つからないのであればこちらから探しに行こう・・
長く伸びた髪を垂らして塔を降りていたら、大きな蛇に出会った。
「おやおや外に出る決心をしたのだね・・どこへ行くのだい?」
蛇が静かな声で問いかけてくる・・
「ルトを探しに行くの・・」
そうしたら蛇はしばしの沈黙の後続けた。
「彼は人間だからもうこの世にはいないよ。それに彼の愛はもう彼女のものだ・・わかるだろう?どれだけ望もうと手に入れられないさ」
ああ・・そんな・・
わかっていたことだったけど・・人がそんなに儚いものだなんて・・