「ルト‥私は貴方の味方よ。お願い、信じてくれるでしょう?」
たびたび話題にのぼった店主が私の主と知りルトは動揺しているようだった。
その精悍な顔に苦悩を浮かべていたが・・
そんなルトを嘲笑うかのように猫なで声の店主様が私を呼ぶ。
「イツハ・・お前は良い子だろう・・?ほらパパのところにおいで、
愛しい娘よ」
以前の私なら迷うこともなく従っただろう・・けれど今は・・
店主様の声に耳を貸さずにルトだけを見つめる。
これは試練!ならば迷わない
・・ルト‥私を信じて!お願い!
「ああ・・お前は俺を裏切る女じゃない。信じるぜシリーン」
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静かに見返す私をルトは信じてくれたようだ。
なら私の心も決まったわ。
私は店主様に‥主にだって逆らって見せる!
たった一つの真実の愛をこの手で守り抜く・・それだけよ!
「私はイツハじゃない!シリーンよ!貴方が私の主でも関係ないわ!私はルトと共に貴方と戦う!」
私の決意が揺らがないことを悟ったのか「店主様」は邪悪な気配を漂わせたかと思うとみる間に魔腹蛇へと変貌した。
蛇の下あごの下あたりに店主様の顔が模様のように浮かぶ。
さらにその邪悪な瘴気に引き寄せられたかのようにそこかしこで闇に属する醜悪な物が生み出される。どこか亡くなった妹達に似ていた。
そして悟ってしまう。
ああ・・私はまだあの娘達の死に囚われているのだと。
ルトからいただいた本には生物、人の子についても記されていた。
皆母体から生まれへその緒という神秘で母と子は繋がっており、先に生まれた方が姉、あるいは兄なのだと・・
だけど私に母はなく、そんな概念すら与えられず人にとって当たり前のことが初めからなかった・・
私達は番号を割り振られ観察されるだけの対象物でしかなく、
少女の姿を経て誰もが大人になれるわけではない。
ある者は異形へと変わりある者は形を成さない幼体のまま果てた。そんな悲しい存在でしかない・・
初めてルトに抱かれた日、ピアスを施した彼のへそを見て羨ましくなってしまった。
ルトはピアスを気に入ったと思ったのか私にお揃いのピアスを贈ってくれたけど私にヘソはないから、慌てて作ったのよ。
後でルトに見せたらしきりに感心していたけど上手くいったみたいね。
だけどそれは本当にルトが思う以上に私にとっては感慨深いできごとだったの。
ああ‥ルトにもお母さまがいてこの世に生を受けたのだと・・
私達は皆卵から生まれ人の形を成しただけの人形・・親などいない。
だけど・・だからこそルトの愛を得た時私は人として生きたいと強く願ったの。
私達は一つだけ己の願いを叶えることができる。
それは不老不死のまま生きるか人として子孫を残し寿命を持つか・・
さあ!最後の戦いを始めましょう!ルト!
これは私が貴方と共にこれからも人として生きるための戦いよ!