「いえ時間通りですよ、はじめましてシリーンです」

 

「へえ、素敵な名前だね。俺はラウル、よろしく」

 

そう名のった途端ラウルさんは手を繋いだまま歩き出した。

 

噂では彼は重度の神話オタクらしいからよほど待ち遠しいのだろう。

 

私も考古学が好きなだけに古代社会における神話体系から昨今だとラブクラフトによる創作のクトゥルフ神話までざっくりとした知識はあった。

 

クトゥルフ神話における怪物が触手を持つ怪しげな深海生物めいているのはラブクラフト自身が魚介類が嫌いだったからだという話だけど・・本当かしら。

 

そう言えば・・ラブクラフトという同姓の作家が最近でも作家大賞を取ったらしいと話題にのぼっていたが、彼もまた最近までキューピットコーポレーションに登録していたパラサイト5の一員だったらしい。

 

世間は狭いわね・・・

 

私が住んでいる5番街にあるピロー専門店の主もパラサイト5のメンバーだって噂をレイラ姉さんがしていたし・・もっとも彼はあまり評判の良くない人物だったし私も見境のない男は嫌い。

 

君子危うきに近寄らず・・だわ。

 

パラサイト5の中で一番近い人物と言えばデザイナーの蛍彩院さんかしら?駆け出しとはいえ宝石デザイナーをしてるから一応面識はあった。

 

繊細さと鋭敏さをあわせもった新進気鋭のデザイナーだと思う。

出会った途端「♯××××××」ってぼそりと呟かれた。

 

アルジル、それが彼が私に持つイメージカラーらしいけど・・

フランス語では粘土とか泥っていう意味らしい・・

 

なかなか手厳しいわね。恥ずかしがり屋なのか私が話しかけても頬を染めて目を逸らすのよね。でもいい子だと思うわ。

 

それはともかく少年のようなラウルさんの姿に苦笑しながら、私は彼に遅れないように歩調を合わせて歩き出した。まるで散歩コースを勝手に変える犬に手を焼く飼い主になった気分だった。

 

彼の手綱を取るのは至難の業だわ。