レイラ様は深窓の令嬢ではあったけれど使用人と駆け落ちされた方だったからもしかすると噂を聞き及んでいたのかもしれない。

 

それともまさか私が密偵だとすでに疑われていたのだろうか?

けれど密偵ならば初心ではないはずと思い直された?

もしそうなら複雑だわ。

 

少なくとも今の私の立場ではライザール様を拒絶することはできなかったが、彼が私の反応を見るためだけに戯れに口づけたのだとするとやはり怒るべきところなのかもしれない。なんといっても今の私は「大貴族の姫」なのだからプライドを重んじてもいいはず。

 

だけど不思議なほど怒りはわかなかった。

 

これまでずっと誰にも唇も身体も許さなかった私にとって、今回の依頼を受けたのは半ば覚悟の上でのことではあったとはいえライザール様とのキスはけっして嫌なものではなかったけど・・

 

心が伴わないキスで奪われてしまった唇はすでにライザール様を受け入れていたのだ。

 

「ええ・・・わかっております。むしろ謝らないでください」

 

そもそも二度目のキスは私から仕掛けた以上、謝られたらより居たたまれない。それにきっとこんなキスはライザール様にとっては騒ぐほどのことではないのだということは私にもわかったから。

 

「ならばいい・・さて、そろそろ皆の元へ戻るか・・」

 

何事もなかったかのように促すライザール様に私も笑顔で頷き返す。

 

笑顔を信用されない方だから無駄なんでしょうけど・・でもいいの。