密偵としても女としても中途半端な気持ちのまま私はライザール様の婚約者として笑顔を振りまく。
だけどまずい事態が起きてしまった。
私が会議の参加者の方と会話していた時のことだった、突然名前を呼ばれた。それは私が使う偽名の一つだった。けれどあえて反応を返さない。だって今の私は「レイラ・アリ」なのだから・・
「もしかしてミラ?」
!?
それはあってはならないニアミスだった。動揺を完璧に押し隠したまま振り向くと見覚えのある男が立っていた。
名前は忘れてしまったが確かに以前、ターゲットになった男の一人だった。身分こそ王族ではなかったが、貴族ではあったから王子の付き添いで参加したのだろう。彼には一夜の甘い夢を見せたがもちろん情報収集のためだけだった。
まだ私の名前を憶えていたなんて・・
「どなたかとお間違えではありませんか?私はレイラ・アリ、ライザール王の婚約者です」
幸いベール姿しか彼には見せなかったから、彼自身も確信があるわけではなかったのか困惑顔だったから、やんわりと訂正すると途端に動揺を見せた。
「あ・・・これは失礼。知り合いに似ていたものですから。けれど貴女ほどの美しい方が早々いるわけないでしょうから私の勘違いでしょう」
口調や物腰は紳士的で、悪意は感じられなかったが傍には燐帝国の兄弟皇子も控えていたしまずいところを見られてしまったかもしれない。