それにしても・・
周囲に漂う血の臭気を嗅ぐとどうも落ち着かない。
昨夜が満月だったせいか私自身少々血が騒いでしまう。
こう見えても狩りは得意だった。
どれだけ隠しても獣の本性は確かにこの身に宿っているから、獣は私を避けていくだろう。
だからこそできれば狩りは避けたかったんだけど・・
ここに来るまでの間、馬に近づくのも気が引けたけど私はライザール様と共に馬車に乗せていただいた。さすが王の馬だけあって動じなかった。
そういえばライザール様は平気そうだわ。
やはり「カルゥー」はライザール様ではないのかしら?
少し自信をなくしてしまいながらも希望は捨てきれない。
そもそも数少ない同族だからこそ気になるわけだけど・・
もしライザール様が同類ならば彼も自分の血を残すために同族の女を娶りたいはず。
けれど彼は普通の人であるレイラ様と結婚されようとしたのだ。
レイラ様が人であるのは間違いないと店主様がおっしゃっていた。
長いこと私の種族を研究されてる店主様だけど私以外の半獣には会ったことはないそうだ。
『だからこそ君は貴重なんだよシリーン。君が正式なつがいを見つける手助けをさせてもらえるかい?』
店主様に悪意がないとはいえ研究対象とされるのは複雑だったけど私は彼の研究に協力することを了承した。
だからこそ思うのだ。もしライザール様が同族だとしても「私」だからではなく、「同族」だからという理由で所望されたのだとしたら・・
血を残したいという利害が一致したとしても複雑だった。
だってそうでしょう?もし他にも同族の女が現れて「子が欲しい」と望めば彼はもしかしたらその女性と関係をもってしまう可能性があるからだ。
そんなの嫌!
想像するだけで不快だった。
それが例えばライザール様の心からの願いなんだとしても受け入れ難かった。
数少ない同族をめぐり熾烈な争いをする、そんなことも起こりうるのだと思えばうんざりしてしまう。