だけど私はまだ名残惜しくて・・もう一日だけ残ることにした。
戦の気運が高まってしまった以上、この地でも戦乱の火ぶたが切って落とされる可能性があるため長政さんには構ってもらえなかったけど、私はお世話になった皆さんにせめてもの恩を返したくて戦に備えて軟膏を作ったり晒しを用意したり裏方のお手伝いに徹して過ごした。
夜になってから長政さんが風連洞龍穴まで馬で駆けて送ってくれた。
私は貴方の役に立てましたか?長政さん・・
そう尋ねたら「俺の命の恩人が何を言う」って苦笑されちゃった。
「お前には返しきれないほどの温情をかけてもらったさ。俺がどれだけその恩に報いることができるかわからんが、達者でな・・七緒、お前には笑顔でいて欲しい」
これから来る戦乱を思えばそれは簡単じゃないことは互いにわかっていた。
だけど私達の間に絆があるなら・・私を人たらしめることができるのは長政さんと今生で結んだ絆だけだった。
龍穴の前でお別れのキスを交わした私は後ろ髪をひかれる思いで一人龍穴の中へと進んだ。
あれが今生の別れになるのかしばしの別れになるのかは私にもわからない。
だけど必ずもう一度再会できると信じよう・・
そう決めた私は決して振り返らなかった。