しばらくして長政さんが顔を出してくれた。

 

手には湯の入ったとっくりを持っている。

それはもはや私達の間で暗黙の了解になっていた。

兄さんが持ち込んでおいてくれた私の荷物にあった「ふわらて」を二人で飲む。

 

一日の終わりにホッとできるひと時だった。

 

本当は話さなきゃいけないことはあるはずなのに、今このひと時だけは他愛ない話を楽しみたかった。

 

そうは言っても女子高生の私と戦国武将の長政さんとではあんまり共通の話題ってないんだけど・・私は話を聞いてるだけでも楽しいし・・

 

侍従の香が好きで人を知るために異国の文化風習にも関心が高くて、コーヒーを好み、藤の花が好き

 

長政さんの好きなことや興味のあることもっと教えて欲しい

 

「そうだ・・七緒。これを・・・星の一族の妹姫から預かってきた」

 

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そう言って長政さんが清めの菊花を渡してくれる。

 

この花を見ると棺の中に眠る長政さんの姿を思い出して悲しくなってしまうけど、この造花が彼の穢れを祓ってくれた大切な花だった。

 

清浄な気をまとった造花がまた少し私の気力を回復させてくれた。

 

さっき差し入れに行った時あやめちゃんはなにも言ってなかったのに・・

 

もしかして気を使ってくれたのかな?長政さんが私の様子伺いに来やすいように・・

 

別府温泉でも私が長政さんのことをどう思うのか興味津々の様子だったから勘の良いあやめちゃんは私の気持ちに気づいているのだろう。

 

それもそのはず気を見る力に長けた星の一族は古来から神子と八葉の恋愛の指南役も務めたらしいと兄さんが言っていたことを思い出す。

 

それはやはり絆こそが龍神と繋がる神子をこの地上につなぎとめることができる唯一の方法だからだろう。

 

ましてや龍神の化身の私にとってそれはかけがえのないものだった。

 

手の中にこめた繊細な菊の花弁がまた一枚ほころびて消えてゆく・・

 

「ねえ長政さん・・約束しませんか?たとえ離れてももう一度必ず生きて再会するって」

 

おそらくこのままいけば来年の9月に関ヶ原の戦は起きてしまう・・

ちょうどその頃は重陽の節句の頃だった。

 

手の中で散る菊花から長政さんの横顔に視線を転じた私の唇に長政さんがキスをくれた。

 

 

そのまま唇を重ねて抱きしめられたらより愛おしさが募ってしまう。

 

やがて唇が離れて再び抱きしめられた。

 

「ああ・・・約束だ。だからたとえどれだけ離れていても絶望するなよ七緒」

 

――長政さん

 

長政さんは約束してくれたけど本当に再会できるかはわからない。

 

それでも私は私の気持ちを汲んでくれた長政さんの優しさを信じよう。

 

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