王妃になりたいなんて野心があったわけじゃなくても、ライザール様の妻になりたいと望めば自ずと立場に見合った野心も生じてしまう。それが世の常だった。

 

権力に群がる周囲に翻弄されて自滅する可能性だってあった。

 

後ろ盾としてターヒル・アリに助力を請うなら彼もまた王の縁者として権威を振るうかもしれない。そのことで必然的に敵対する勢力もできてしまうだろう。

 

ライザール様にだけはご迷惑をかけるわけにはいかなかった。

 

「貴方はこの場所でずっとそんな思いをされてきたのですね」

 

彼は生まれついての王になる身だったから私とは違うけど、ほんの少しだけ垣間見てしまった世界を前に私は立ちすくんでいた。

 

だけどもし、ライザール様が手を差し伸べてくださるのならば・・

私も勇気を出して貴方の手を掴み取るのに・・・

 

「ああ・・そうだ。清濁併せ飲まねばこの場所では正気を保つことすらできん。だからこそ私にはことさらお前が眩しく見えてしかたない。

 

以前、踊り子の世界のことを話してくれただろう?さぞや熾烈な戦いを繰り広げているかと思ったが、お前はそんなことおくびにも出さなかった。

 

舞台で踊るお前を見た者は皆その輝きに魅入られてしまう。光が強ければ周囲の闇が濃くなるはずだが、お前は皆に慕われていたし、あの場所でこそお前は羨望の的でいられるのだと私にもわかった。

 

だが宮廷は魑魅魍魎の巣くう別世界だ。暗殺者が横行し、陰謀もそこかしこで画策されている。そんな醜い場所にお前は私と共に立てるだろうか?・・・私と共に生きてくれるか、シリーン」

 

 

ライザール様の愛だけが心の拠り所だった。それ以外寄る辺ない私だったけれど彼の信頼に応えて共に人生を歩みたいと願うならば覚悟を決めるしかなかった。

 

「私は貴方を愛しています、ライザール様・・貴方と共に生きたいです」

 

これまで何度も飲み込んだ言葉をやっと口にすることができた。

慎重に慎重を期してきた甲斐あったかしら?

 

傷つきたくなくて裏切られたくなくて落胆したくなくて臆病なほど

用心深いのはお互い様だったようだ。