ライザール様はすでに着席されてワインをたしなまれていた。

 

「ライザール様、お待たせいたしました」

 

王は上機嫌で微笑まれると、鷹揚に頷かれた。

 

「ああ・・構わない。今夜もまた艶やかだな、シリーン。新鮮なレモンのようだ・・おもわずもいでしまいたくなるな」

 

艶っぽいのは貴方の方だわ・・ああ、あんまり誘惑なさらないで・・

 

王に微笑み返し着席した私は、ワインをいただきながら先ほどの贈り物について尋ねることにした。

 

「あの砂時計を置かれたのはライザール様でしょう?」

 

密偵の性でたとえ就寝中であっても部屋に侵入されたら目を覚ます習慣がついていたが、相手がライザール様だからこそ無防備なまま眠ったままでいられたのだ。

 

つまり私の就寝中に部屋に侵入したのは王だけだということ。

 

「・・・ああ、気にいったのならばぜひ受け取って欲しい。あれはお前のものだ」

 

 

私にとってあれはただの砂時計ではなかった。

大切なルトとの思い出を詰め込んだものに思えてならなかったから。

 

けれどもちろんライザール様は何もおっしゃらなかったし、私も尋ねたかった。

 

それはもはや私達の間で暗黙の了解となりつつあった。

 

セピア色の甘く切ない思い出は確かに大切だったけれど、私達は今を生きている。

 

ルトだと確かめて追憶に浸るよりすべきことは他にあるはずだった。

 

それに今は「婚約者」と「クライアント」の関係ですもの。

 

だからこそ今はお伺いしないでおきますね。

 

仕事が終了した後も私達の関係を維持できるのかはライザール様次第だった。

 

心が繋がったままならあるいは・・