もし、あの時なんて考えてもしかたないことなのはわかってるけど、もし、私に山一帯の怨霊を払うだけの力があったなら長政さんを助けようとした護衛の人達だって救えたかもしれない・・・
だけど私は自分のできなかったことを悔やんでも前に進むことしかできなかった。多くを望んでもできるのはほんのわずかなことだけだった。だからどうか長政さんも自分を責めないで欲しい。
子供であっても彼の心はすでに武士(もののふ)だったからより悔しかっただろうな。
しかし突如出現した巨大な骸骨の怨霊「がしゃどくろ」に襲われ絶体絶命となってしまった。たぶん松寿丸君が無事だったのは彼を生け捕りにするつもりだったからだと思う。父上のことだから見せしめに公開処刑にする気だったはず。
「あの怨霊の深淵のごとき眼窩を見た時感じた絶望感を思い出すことはもうできないが、だがその時だった。神気をまとった天女のごとき女が神獣に跨り颯爽と舞い降りたのは。
これが音に聞こえた「龍神の加護を受けた神子」だと俺はすぐ察した。そして神子は白麒麟を駆り長く艶やかな髪をたなびかせて臆さずにがしゃどくろへと立ち向かった。
光の帯を漂わせながら縦横無尽に空を駆ける白麒麟を巧みに駆り勇ましい掛け声とともに薙刀を振るい見事がしゃどくろを討ち取って見せたのだ。その姿に俺は深く感銘を受けた」
だけど途方に暮れる彼を叱咤激励する神子の剣幕に、驚いたそうだ。
そこは忘れてほしかったな