「泣かないで!!悲しいのはわかるけど今は泣く時じゃないでしょ!貴方はなにがあろうと生きなければならないの!!」

 

子供を叱咤激励するのは心が痛むけど生きてさえいればこれから先の未来が開けるもの。

 

「女子(おなご)のくせにそんな顔で怒鳴るな。嫁の貰い手がなくなるぞ・・もし貰い手がないならば俺が貰ってやってもいい」

 

ませたことを言う松寿丸君の言いぐさがあまりにも小憎らしくて苦笑してしまう。

 

「そなたは笑ってた方がずっといい。さっきは助けてくれたのだな・・礼を言う。神獣に跨り薙刀を振るう姿はまるで巴御前のようだった」

 

有名な女武者に例えられて面はゆい。

 

けれどそこに新手の手勢が押し寄せる気配があった。やはり父上は身代わりの少年の命で済ます気はないのだろう。

 

私は刀を収めた松寿丸君の小さな体をきゅっと抱きしめた。

 

振るえてる・・そうだよねどれだけ気丈に振舞っていても親しい人達の死を目の当たりにして怖くないわけがない。でも絶望するのはまだ早いよ!!

 

「君、馬に乗れる?」

 

確認の為に聞くと「無論!武士のたしなみだ!」と即答する。

 

強がりじゃなければいいけど・・けれど迷っている暇はなかった。

 

「ね、松寿丸君、良く聞いてここから先に進めば河内の龍穴にたどり着くことができるから、そこから先は白麒麟がきっと貴方を導いてくれる。だから諦めないで!私は貴方を待つ人の元に送り届けることはできないけど・・そのかわりに貴方にこれをあげるわ。ご利益のあるお守りなの。私だと思って大事にしてくれる?私とお揃いなの」

 

それは長政さんが受け取ってくれなかった鏡の縁結びのお守りだった。

 

『本当に必要とする者にやるがいい』

 

長政さん!あれってこういうことだったんですね。

 

「鏡でできたお守りか?・・破鏡重円というわけか。いいだろうこれは命の恩人であるそなただと思って大事にする。なにがあろうと決して失くすまい。」

 

よかった、今度こそ受け取ってくれた

 

このお守りは時を違えたとしても効果を発揮してくれるだろうか?