相変わらず怨霊の気配がして周囲には不穏な気配が満ち満ちていた。
その時だった夜陰をつんざくような悲鳴が聞こえて来た。
今の状況で誰かに見とがめられたらまずいことになるかもしれなかったけど、それでも悲鳴の聞こえた方に怨霊の気配がする以上神子として放置はできなかった。
私の決意を後押しするように鈴の音がまた一つ「シャン」と聞こえた。
わかった白龍行くよ
暗闇の中月明かりだけを頼りに林を駆けるとやがて複数の松明の明かりが見えてきた。緊迫した気配と怒声が響き渡っていた。
それは明らかに武装した侍の一行だったけど、中には女性の姿もあるようだった。
驚いたのは一行の中に子供らしきシルエットを見出したことだった。
雰囲気からどうやらその少年こそ彼らが守っている主らしかった。
侍たちは一様に刀を抜き周囲を警戒しているようだった。
その中の一人が私の存在に気づき声を荒げた。
「そこもと!どこの家中の者か!!」
この世界では出自ですべて決まってしまう。
うかつなことは言えなかった。
だから織田の名前は出さずに「龍神の神子」であることを明かす。
「私は白龍に選ばれた龍神の神子です!!あいにくと八葉はいませんが怨霊の気配を感じ取り参上しました!!」
わけありな一行だけに得体の知れない私の言い分を取り合ってくれるかはかけだったけど、「龍神の神子」の名乗りは想像以上の効力を発揮したようだった。