一方その頃、七緒と森で別れた長政はまっすぐ神社の本殿を目指した。
山は怨霊に包囲されていたが幸い霊験あらたかな神社の境内に穢れはない。
「今更龍穴を通るなど望郷の念が強いのかとも思ったが、俺としては運が良かったようだ」
ここに足を運ぶのは初めてだったが寺社仏閣はだいたい造りが同じだし案内図を見れば迷うこともなかった。手水を使い清めた後、本殿にて参拝する。
長政は懐に手を入れると常に肌身離さず持っているきんちゃく袋から年季の入った「鏡の縁結びのお守り」を取り出すと古札収所に返納した。
「宗旨は違うが世話になったようだ。このお守りがあったから俺はこれまで強く生きてこれた。だから感謝する。だがここから先は俺自身がやらねばならないことだ」
生憎とこの時代の貨幣は持ち合わせがないが、五月に聞いたところでは古銭はそれなりに価値があるらしいからこの際それでよしとすることにした。
常に不測の事態に備えて持っている財布から金1両を抜くと賽銭箱へと投じた。
それから作法に則り二礼二拍手一礼して参拝を終えると皆と合流するために天野家へと向かった。
家の前で庭の花に水をやっていた五月とばったりとあった。七緒の兄らしく一見温厚な人物ではあったがなかなかにしたたかな一面もあり策士の男だった。
「あれ?長政さん・・もしかしてうちの神社にお参りしてくれたんですか?」
こちらと違い、あちらの世界の神は龍神だから不思議なのだろう。
「ああ、野暮用でな。参拝もさせてもらった」
笑顔で相槌を打つ五月に事後報告を済ませると長政は家の中に入った。
後日、元の世界に戻って来た五月をはじめとする七緒を除く天野家の人々は賽銭箱から発見した新品の金1両に青ざめたことだろう。