お世話になった真田の庄を離れ旅を進めた私達だけどこれからに備えるために補給を兼ねて龍穴を通り元の世界に戻ることになった。

 

これまでは龍脈が傷ついていたからたびたび戻ることができたけど根気よく怨霊を浄化して穢れが減ったから龍脈は正常に戻りつつあった。

 

もしかすると戻れるのはこれで最後かもしれない・・そんなことをつい考えてしまう。

 

五月兄さんは戻るのが待ち遠しく感じていたみたいだけど、私も一緒に戻るだろうと考えているみたいだった。

 

だけどここ最近の私は長政さんへの気持ちが強まってしまったせいか、元の世界への望郷の念は薄れこの地で生涯を全うするのも悪くないと思えるようになっていた。

 

我ながらもの好きだと思う。元からこの世界しか知らない人間にとっては、戦や飢饉、災害、怨霊や夜盗、重税にあえいでいようとこの地から逃れる術はない。

 

彼らからすればまさに私はかぐや姫が住まうという月の住人、

あるいは桃源郷に住まう天女のごとき存在に思えるだろう。

 

平和で快適な安定した生活を捨て去り、愛だけを求めてこの世界に残るなんて酔狂だと思われるかもしれない。

 

それも全て私が二つの世界に生きる存在だったから。

 

五月兄さんの求めるものはこの世界にはないのだから戻りたいと思うのは当然だった。

 

これまで兄として慕ってきた家族と永遠の別れになるのだと思えばもちろん躊躇はあった。

 

だから大和の気持ちも知りたくて聞いてみたら大和は元の世界に戻るつもりはないってきっぱり言い切った。

 

その迷いのない目に、彼が抱えた孤独とか決意とか感じてしまって私には何も言えなかった。

 

大和は五月兄さんとは反対にあちらの世界に未練はないんだ。

お父さんとの関係がこじれたまま大和はこちらの世界を選んでしまった。

 

だけど・・私は二人とは違って両方の世界を愛していた。

両方の世界に家族がいて居場所だってある・・

 

そしてかけがえのない愛を見つけてしまった。