やぶさかじゃないって言ったの!?
それが本気なのかやっぱり私を揶揄っているのかわからないけど、さっきからうるさいくらいに胸が高鳴ってしまって熱い湯とあいまって頬が火照ってしかたない。
吐息がかかるくらい顔が近くてキスされてしまうかもって咄嗟に閉じた瞼に何かが触れた。
なんだか不穏な気配を感じた気がして目を開くと驚くべき光景が待ち構えていた。
え?うそ・・・桜の花びら?
だって今日は私の誕生日、8月3日だった。(ふふふライザール様のお誕生日だも~ん)夏に桜だなんて綺麗だけど見惚れているわけにもいかなかった。
「神子、これを羽織るがいい。だが油断するな・・間違いなく怨霊の仕業だろう。・・・来るぞ!」
長政さんが投げて寄越したのは陣羽織だった。素肌に身に着けるなんて恥ずかしいけどここはありがたくお借りすることにした。
周囲を窺っていた長政さんの声に警戒を強めた私達の視線の先には満開の山桜の古木があった。
咲くはずのない幻の桜の花びらは美しくはらりはらりと舞う。
それはまさに幻惑の幽玄の美だった。
怨霊の結界の中にいるせいか異変に気付いた仲間はいないみたいだった。